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夢を見た。
今日もまた、
逃げたくなるような怖い夢を。
今日の夢は多分、一週間後の話。
僕の暮らす施設のご近所に住む優しいお爺ちゃんが亡くなる。
死因はたぶん寿命…。
死に目に会えなかった娘さん達が
急いでお爺ちゃんの家に来て
お爺ちゃんの手を握って泣いている。
そんな悲しい悲しい夢。
一週間後、現実になってしまう。
すべて、これは未来予知。
「ごめんね…でも、教えてあげられない」
涙が止まらない。
遠くに住んでいるらしいお爺ちゃんの子供さんに
この事を教えてあげれば
きっとお爺ちゃんの死に目にあえる。
だけど、それをするわけにはいかない。
それは未来を変えてしまうことになるから。
「ごめんね…」
何時か分からないけど真夜中。
声を出したら皆起きてしまうから
必死に声を殺して泣いた。
「…セレナ、どうしたんじゃ」
「あ…」
けれど、隣で寝ていた眼芽くんは
独特の古風な口調で尋ね、ゆっくりと体を起こした。
「…ごめん、起こしちゃって」
「構わん。それよりまた見たんじゃろ。“苦い夢”を」
“苦い夢”
彼は怖い夢をいつもそう表現する。
「今度は何を見たんじゃ。誰にも言わん、申してみ…」
そういって眼芽くんは僕の隣に座って背中を擦ってくれた。
「……あの近所のお爺ちゃん、寿命、で…死んじゃう」
「そうか…」
「でも、お爺ちゃんの娘さん達に教えてあげられない…僕は…」
眼目も辛そうな顔をしつつも
小さく頷きながら話を聞いてくれた。
「けどの、寿命は仕方ない事じゃ…。人の死に目は悲しいけどの…」
命の尊さは、僕より彼のほうが知っている。
彼もまた、僕と同じで不思議な力を持っているから。
そして、本当はずっとずっと歳上で、
お友達の死に目を何回も見てきたらしい。
だからかは分からないけど、不思議と素直に相談できた。
「辛いなら…その夢、わしが平らげてやるぞ?」
彼の能力は夢を食べる能力。
いつも僕をこうやって宥めてくれる。
嫌な夢はとても美味しくないらしいけど
構わないって。
でも
「いい…」
僕は眼芽くんの申し出に小さく首を振った。
「そうか、やっぱりお前さんは偉いの」
「…ううん。そんなんじゃないけど…辛いけど…忘れたらもっと辛い気がするから…」
その言葉に優しく微笑んでくれた。
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