0人が本棚に入れています
本棚に追加
性別が服装でしか判断出来ない程、その少年の顔は女性のようで、まるで人ではないかのような妖艶なオーラを放っている。「美しい」としか言い表しようがなかった。
「あ、ありがとう……」
又七は、恐る恐る手を伸ばし、手紙を受け取った。
「早く去れ」
少年は、感情のこもっていない声で静かにそう告げた。
「え………?」
戸惑う又七に、少年はもう一度言った。
「去れ。二度とここに近づくな。近づけばお前の命は無い、これは忠告だ」
少年の瞳は、ガラス玉のように澄んではいるが何も映していないかのように虚ろだった。
又七は、少しだけ恐ろしくなって、走ってその場を去った。
だが、もう少しだけ、あの歌声を聴いていたかったような気がした。
🌸 🌸 🌸
「オイ、又七。お前今までどこ行ってた!?」
「べっ別に。対したとこには行ってねえよ」
又七は、誤魔化すように三郎にそう言った。
「んだとぉ?ど~せ山にでも行って鳥でも追っかけてたんだろ?仕事サボりやがって」
「あのさ……」
「ん!?」
「…親父、女みたいな綺麗な顔した俺くらいの年の男、見たことある?」
そう尋ねると、三郎の動きが止まった。気がした。
「───又七、お前薊を知ってるのか…?」
「アザミ…?」
「羅生門薊。村中の奴らから忌み嫌われてる“鬼”の子だ。あいつに関わるとろくなことがない」
「…………」
────夜、又七は縁側に出て夜空に浮かぶ満月を見ていた。
そして、薊という者のことを考えていた。
“鬼”────。人を食らい、人を害する生き物。
あの美しい少年が、そんな化け物の子供………?
あり得ない。そもそも、鬼という生き物は人が勝手に想像したものではないのか。
最初のコメントを投稿しよう!