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───ヒラリ、と何かが又七の足下に舞落ちた。
手に取り、それを見る。
「桜の花びら……?」
今は春だが、花びらがここまで飛んでくるのは初めてだった。
「その花びら……又七、まさかお前桜の木に近寄ったのかい?」
振り返ると、この家の長老、トキが立っていた。
「おトキさん…」
トキは又七の隣にゆっくりと腰掛けると、彼に尋ねた。
「又七、お前、この村にある“桜の呪い”を知っているかい?」
「桜の呪い…?」
トキは、話し始めた。
「…あれは…60年程前のこと…」
───トキの話は、あまりにも悲惨だった。
「この村にはね、鬼の夫婦が住んでいたんだよ。鬼とは、人から忌み嫌われ、恐れられる存在──だが、その考えは間違っていた。彼らは一切、人に害をなさなかった。それでも村人は、彼らが鬼だからという理由で、桜の木の前に呼び出して殺めてしまった。死体はそのままそこに埋めて、村人は安心して生活出来るようになった。だが、そこから「呪い」は始まったんだ。人があの桜木に近づくと、その人は必ず死ぬようになった。今までにもう何人も死んでいる。又七、あの桜の異名を知っているかい?」
「…知りません」
「“鬼桜”だよ。…あの桜木は死んだ鬼の夫婦によって守られてるんだ」
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