眼を覚ましたら、知らない場所だったってのはよくあることだ

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 ◆ それから歓迎会は特に変なことが起こるでもなく、無事に幕を下ろした。今、私は涼風に当たるために白玉楼から出て、妖夢に斬り掛かられたあの時の池のほとりに佇んでいる。 涼風とは言い難い厳しい寒さを運んでくる風と、澄みきった空気が今の季節が冬真っ盛りだということを私に教えてくれる。……まぁ今が一月の下旬だなんて、既に妖夢に教えてもらっていたんだが。 夜空に映える星々と少し欠けた月が仄かに照らしてくれている下で、先の歓迎会の模様を振り返る。 妖夢から人魂云々の説明を受けた後、確か白玉楼の住人の間で行われていた呑み比べに参加したんだったな。 周りの住人が囃し立てる中、一番の酒豪らしいハザマとかいう医者との呑み合いを繰り広げた結果、先にぶっ倒れたのはハザマだった。なんとか勝てたのは良かったものの、呑み過ぎで体の火照り具合が半端じゃない。それを冷ますために外に出たのだが、この寒さだとあまり長居しなくても火照りは鎮まりそうだ。 それと住人の妖夢への人気が凄かったのも印象深かったな。事あるごとに好きだの愛してるだの結婚してくれだのと住人が告白しまくって、それに妖夢はしどろもどろになり、初々しい反応を見せていた。そんな妖夢でも尻を触られた時は激怒して短刀を振り回していたが。 幽々子殿はというと、終始笑顔を絶やすことなく宴会の様子を眺めていた。食事の方もちょいちょいと摘む程度で、恐らく食事や酒よりも宴会の雰囲気そのものを楽しんでいたのだろう。 「本当に、楽しい宴だったな……」 思わず溜め息をつきつつ、そう口から漏らす。料理を食うにしても、酒を呑むにしても、ここまで楽しいと心の底から感じたのは偉く久しぶりな気がする。 そうしてしばらく水面の自分と睨めっこをしていると、体に寒気が走った。まぁこのくらいが頃合いか。 そろそろ引き上げようと踵を返し、杖を頼りに白玉楼へ戻ろうとした瞬間だった。
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