眼を覚ましたら、知らない場所だったってのはよくあることだ

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おかしい。色々とおかしい。私は目を覚ましてから訳の分らぬこの現状に酷く混乱している。 まず、ここはどこだ? 見渡せど見渡せど周りに広がっているのは枯れた木々や人魂のような何かばかりで、私の知る風景ではないし見覚えも全くない。 それにこの異常な体の軽さ。大して力を込めずともその辺の木は軽々と飛び越せてしまいそうだ。手に持った愛用の杖がないと歩くことすら不安を覚える。 最後に、何故私は突っ立ったまま眠っていたんだ? 確かに私はそれなりに年を食っているが、ボケが始まる程の年齢でもない。 記憶を掘り起こしてみるか。えぇっと、寝る前はどんなことをしていたんだっけかなぁっと……あぁ、そうか。 「私はもう、死んでいる」 どこぞの世紀末救世主のような台詞だが気にしない。そうだ、私は戦死したんだ。ということは、ここは天国か。それなら体が軽いのも頷けるというものだ。 しかし、天国という感じがしないな。さっきも言った通り周りに生えているのは枯れ木ばかりだし……。まぁいいか、とりあえず散策してみよう。そうすればいずれここがどこかも分かるだろうし。 杖でバランスを取りつつ歩き始める。気をつけないといつ浮いてしまうか分からないという奇妙な緊張感に包まれながらも進んでいくと、視界の端に池が見えた。丁度いい、自分の姿でも確認していくか。 池のほとりに立ち、水面を見つめる。波打つ水の向こうに見えたのは自分と寸分違わぬ形をした人物。赤い頭髪は前は眼に掛からない程度で、後ろは首の付け根あたりで乱雑に切られていて、瞳は澄んだ青色。服装は丈が太股あたりまである黒のキャミソールの上からフード付きの肌色のローブを羽織っている。 「身の丈も変わり無しか……」 生前は小学生にしか見られなかった身長のせいで、自分と同じ長さの杖がやけに不釣り合いに見えてしまう。これは今に始まったことではないので気にすることでもないのだが……。 先端が奇妙な形に曲がりくねった、鈍い光沢のある黒色の杖を動かし、その場を後にしようとした時だった。 (何かいるな……)
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