眼を覚ましたら、知らない場所だったってのはよくあることだ

6/16
前へ
/87ページ
次へ
 ◆ 「――つまり、ここは白玉楼という死者が集う場で、冥界の一部であると」 「うんうん」 「そして、冥界や生者の住まう下界などをひっくるめて幻想郷と呼び、それは私が生前まで生きていた世界とは隔絶された場所であると」 「そうそう」 「隔絶されているはずなのに何故私が幻想郷の冥界にいるかは分からない……纏めるとこんなところか」 「よく出来ました~」 先程とは時及び場所が変わり、白玉楼の主の間にて私は屋敷の主・西行寺幽々子殿より直々に説明を受けていた。 私の纏めを聞いて満足したのか、机の対面に座る幽々子殿は所々にフリルがあしらわれた水色の着物の袖を揺らしながら笑顔でパチパチと拍手をする。 この所作といい妙に間延びした口調といい、とても冥界の管轄を任せられている重要人物とは思えない。町人A……いや流石にそれは言い過ぎか。 だがそれらは外見だけで判断した場合だ。裏を読ませない話し方、内に秘めている強大な力、見た目で判断するなという良い見本だな。敬称を付けているのも幽々子殿が只者ではないことを感じてのことだ。 「それにしても、よくこんな絵空事みたいな話を一発で信じたわね」 「慣れているのでな」 魔術師なんて言葉、生前の世界で口にしたなら『妄想乙』とか返ってくるくらいだからな。……一応言っとくが、魔術師というのは私の妄想ではないからな。 「ところで……」 「うむ」 「うちの妖夢はどうしてああなっているのかしら?」 「……すまない」 部屋の隅を一瞥しつつ、幽々子殿は疑問を投げかける。一瞥した先には、こちらに背を向けながら隅っこで体育座りをしている妖夢がいる。いかにも落ち込んでいますという重いオーラを放ちながら。 妖夢がああなっている原因は私にある。屋敷に上がってからここに案内されるまでに、妖夢に気になった点を注意していたのだが、何故か途中で涙ぐみ始めて、この部屋に着いた途端にあの場所に移動してそれっきりだ。 言い過ぎたか? そこまで厳しく言ったつもりではなかったのだが……。
/87ページ

最初のコメントを投稿しよう!

71人が本棚に入れています
本棚に追加