~約束~

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~約束~

午後五時の定刻を知らせるチャイムが、事務室の中に響き渡る。 いつもであれば、定刻のチャイムが鳴ったところですぐに仕事を終えることなど無いのだが、今日だけはどうしても定刻で帰らなければならない理由が俺にはあった。 机の上に広がっている書類を束ね、パソコンの電源を切断していると、隣の席に座る同僚の橋本が、キーボードを叩く指を止めて、俺に話しかけてきた。 「安藤さん、今日は珍しく早いですね。何かあるんですか?」 「今日はちょっと大事な用事があってね。定刻で帰らなければならないんだ」 「大事な用事ですか? 安藤さんを定刻で帰らせるなんて、よほど大事な用事なんでしょうね」 俺の用事に本当に興味があるのか、あるいは単に定刻で退社する俺に対しての嫌味なのかはわからないが、橋本は俺の大事な用事を聞き出そうとしているように見えた。 橋本はただの同僚で、上司であるわけでもないのだから、俺が彼に自分のプライベートを明かす必要など少しもないのだが、どうせ今ここで答えなくとも、明日になればまた同じ事を俺に尋ねるだろう。 彼はそういう男なのだ。 一度気になったことについては、その答えを知るまで決して諦めずに食らいつく。 そうなってしまっては余計に面倒だし、彼ならば必要以上の聞き出そうとしかねない。 おそらくここで話しておいた方が得策なのであろう、そう思った俺は、書類を机の中にしまってから言った。 「今日は結婚記念日なんだよ」 「なんだ、そういうことだったんですね。確かにそれならば早く帰らなければなりませんね」 俺の答えが彼の興味をそそるようなものではなかったのか、橋本はそう言うと視線をパソコンに戻し、止めていた指を再び動かし始め、こちらに視線を向けることもなく、付け加えるように、「お疲れさまでした」と言った。 俺は、「先に失礼させてもらうよ」と答えてから、鞄を持ち、事務室を出て、会社を後にした。
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