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苦しそうで、哀しそうで、今にも泣き出しそうな升富の表情が忘れられない。クルスは、これでよかったのか、と心の内で首を傾げてしまった。
「これで終ったのか?」
「……いや、貴様も分かっているはずだ。これからに決まっているだろう」
この時、コウは心底で身を震わせたという。ニタァッ――と、フィルは笑ったのだ。陰の掛かった笑顔は、とても好印象を印象付けられるものではなく、まるで悪魔だ。ロールシャッハ・テストと同じく、心理がそう見せたのだろうか。
笑ったフィルは、拳銃を取り出し銃口を人形へと向けた。ダンッ、ダンッ――ダンッ、と3発の発砲。的確に狙った銃弾は、人形の右肩、腹部、そして眉間を貫いていた。
『キィー……キャッキィー……キャッキュュッ……キュッ……キャッ……』
音声回路に支障をきたしたのだろう、不気味に響き渡る悲しげな笑い声。フィルはこれで終った訳ではないと言った。それではこれが始まりだとでも言いたいのだろうか。それをフィルは口にはしない。そのまま人形の元へと歩み出した。
「魂への冒涜やで、それ。悪霊になった魂はもうおらん。成仏したんや」
それを止めに入ったのはアブスケ。肩を掴んで引き止める。しかし、フィルは振り返りもせずに言った。小さな声だった為、その言葉は肩を掴んだアブスケにしか届かなかっただろう。
「――なんやそれ……?」
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