~ ここはどこ? ~

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    コウは何かを見ていたのだろう。それでも見た光景が信じられず、状況を理解できずにいた。ゆっくりと倒れている女性から視線を上げて、階段の方へと向ける。ちょうどその時、階段の影へと何かが入っていたのが見えた。     『――キィ……キィ……キィ……キィ……キィ……』     錆付いた金属音が頭の中に焼きつく。あれは車椅子だろうか。いや、クルスはそこを気にしていた訳ではない。クルスにも見えたのだ。ハッキリとではない、それでも確かに見えた。車椅子に乗った少女の口元が微笑んだ風に見えた。笑っている口元が強調された。     「――アイツが押したんだよっ! おいっ、お前らも見てなかったのかよ? アイツ今、人を殺したんだぞっ!?」     乗客に訴える様にコウは叫んだ。叫んだだけではない、身振り手振りで、乗客にも掴みかかろうとしていた。それでも誰も気付こうとはしない。触れる事も儘ならないでいた。     「……無駄だ。ソイツらは認識すらできていないだろう。それに、これは過去を見せられているだけだしな、もう手遅れだと言う事だ」     「くそっ!」     苛立ちに任せてドアを蹴ろうとも何も変わらない。それどころか音も衝撃もなかった。ここはやはり普通とは違うようだ。     「あれって、升富 桜さん? じゃあここって、フィルさんが言っていた駅って事だよね? そうだよね? 升富さんは自殺じゃなくて――殺されていた?」        
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