~ ここはどこ? ~

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    「――なぁ、フィル。あれは本当に升富って奴の呪いなのか? だってそうだろ、お前は怨念が織り交ざっているって言ってたしよ(17㌻~参照)。俺もそんな単純な問題じゃねぇ気がするんだ」     「同じ説明はしてはやらん。だがしかし、俺は優しいからな、少し変えて説明してやろう。貴様はロールシャッハ・テストを知っているか? 投影法に分類される性格検査の代表的な方法の1つだ。スイスの精神科医ヘルマン・ロールシャッハによって1921年に考案された……」     「そんな薀蓄(うんちく)はいいから」     コウに言われると、フィルは寂しそうな表情になった。言いたかったのだろう、説明したかったのだろう。とても残念な表情を浮かべながら、     「感情移入をするなと言う事だ。己に弱さを持って見れば天使にも悪魔にも見えるだろう。今回は強引に引きずり込まれた形となってしまったからな、心の弱さは見せるなよ」     窓の外を見ながら言った。あの哀しそうな表情は、説明できなかったからではないのかもしれない。視線の先には升富 桜の死体。彼の伝えたい事は、コウには微塵とも伝わってはないだろう。しかし、何か重要なカギにあたる物がきっとここにある、そうコウは思っていた。     『プシュッ――ガーッ……』     そこでタイミングを計ったように電車のドアが左右に開かれた。開かれたものだから、ドアに手を掛けていたフィルがよろめいてしまう。コウは思っただろう、この人は格好つける事はできない、と。   しかし、そんな事はフィルにはどうでもよい事で、何事もなく電車を降りるのだった。        
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