~ ここはどこ? ~

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    「アブスケ君、早くなんとかしてちょうだいよっ!」     「わかっとるわ、少し静かにしときっ」     左手に持たれた数珠をジャラリと鳴らし、升富の前へと重ね合わせた。そしてアブスケは、数珠越しに映された升富を前に、自らの視界を奪ったのだ。硬くではなく、極々自然に目を閉じた。     「御祓い言うんは、そんな簡単なもんでない。お前らもちゃんと願えや、こん人の成仏を。まずは心を通わせる。頭を下げたまま目瞑りい。いくで、一つ、二つ、三つ――」     空気が、空間が、ゆらりと揺れるのを感じた。遮る壁のない駅のホーム。月明かりも揺れ、影も揺れ、数珠も揺れ、ゆらゆら、ゆらり。ゆらり――ゆらり、と。     「――お祓いに肝心なんは、ソイツん事を認めてやる事なんや。お前は悪ない、お前は悪ないってな。まずは自意識を消してな、警戒心を消すねん。そしてちゃんと見てやる。目を背けずに、ほれ、開いてみ――ちゃんと見てやるんや」     アブスケの言葉に釣られて皆の目が開かれた。『認める』と言う言葉は何を意味していたのか、それはクルスとコウには解っていた。解っていたからこそ違和感や不信感を抱かざるを得ない。     それでも御払いのプロフェッショナルであるアブスケは言った。これが神道と言う事なのだろうか。勿論、これは日本の御祓いに限ってではない。西洋の悪魔もまた名を知られる事を嫌う。己を知られるのを嫌う。認識を嫌う。     「アブスケさん、あれ見てっ!」        
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