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クルスが指差したのは升富だった。升富は操り人形の糸が切れたように膝を着いてしまっている。苦しむ様に、弱々しく、細いけれど筋肉質な手をクルスに向けて伸ばしたのだが、その手には人形が握られていた。
何かを訴えたいのだろうか、とても切なそうな顔でクルスを見ている。動いた口は言葉を発する事はない。それでも必死に何かを訴えかけようとしていた。
「大丈夫や、これでええんや、これで」
言ったアブスケは、表情にもどかしさを残し数珠を鳴らす。ジャラリ、ジャラリ、と。それでも何故だろうか、クルスの心には切なさが残ってしまう。毒を擦り付けられた様に締め付けられる切なさが、自然と涙を流させた。
「安部?」
「あれ? あれっ?」
両手で涙を拭っても、クルスの茶色い瞳から零れた涙は拭い取れるものではなかった。次々と溢れでるのだった。
「泣いているのは――升富さん、アンタなの?」
言うと、升富の身体が黒に侵食されていく。全身を蝕まれるように黒ずんだ肌。次第に身体は雲の子でも散らすように崩れていった。残されたのは、悲しむ事もなく愉快に笑い声を上げる人形だけだった。
『――キャッ、キャッ……』
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