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「......持てるの、これ」
無言で立ち尽くしていた私の前で、小さくため息をついた吉岡くんは、商品を詰め終えた袋を、チラリと見つめた。
よく見ると、二つの透けて見える袋の中には、片手だけに負担がかからないよう、缶ビールがバランスよく分けられているように見える。
「あ......うん、平気」
慌てて財布からお金を取り出し、彼に手渡すと、
「広瀬」
彼は、真っ直ぐに私を見つめた。
「......お前、いいの?」
「......」
私の心の奥深くを探るような、彼の瞳。
一瞬戸惑いながらも、彼のその言葉の意味を理解した私は、ゆっくりと頷いた。
「......いいの、私はこれで」
「......」
声が、震える。
「好きだから、彼の事......」
「......」
「だから、このままでいいの......」
「......」
「......私、今すごく、幸せだかっ......」
気付けば、私の目からは、次々と涙が溢れていた。
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