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「......広瀬」
俯いていた吉岡くんは、ふと顔を上げると、真っ直ぐに私を見つめた。
「ちゃんと、考えた?」
『ちゃんと考えなよ?その涙の意味』
彼の、あの日の言葉。
私は、彼に全てを見透かされないよう、そっと顔を背けた。
「......たまたまなの、あの日」
「......え?」
「ホントはいつも、すごく優しいの、私の彼」
「......」
「じゃなかったら、付き合ってるわけないじゃない」
私の胸の奥が、まるで何かに刺されたかのように、ズキッと痛む。
「ごめんね?心配かけちゃって」
私は、彼から目を逸らしたまま、精一杯の笑顔を作った。
信じてくれただろうか......
バクバクとした心臓を抱えていた私に、
「......そっか。......わかった」
吉岡くんの、小さな声が聞こえる。
チラリと横を覗くと、吉岡くんは、少しだけ私に微笑みかけた後、再びスッと私の答案用紙に視線を逸らした。
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