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家までの道を、ただ歩いた。
すれ違ったカップルが、私の背中で「うわ、あの子悲惨」と囁く。
雨に打たれ、小さなバックだけを抱えて歩く自分が、とても惨めに思えた。
私を追い越した人が、数歩先で足を止めたのが視界に入る。
「......広瀬?」
聞き慣れた声に顔を上げると、土砂降りの中、傘を差して立っている彼がぼんやりと見えた。
足早に近付いてきて、私の上にその傘をかぶせる彼。
「......吉岡、くん......」
私は、目の前の彼を見上げた。
「何......してんの、お前」
見開いた目で彼が言う。
「......帰ろうと......」
「え?」
「家に、帰ろうと......雨、降ってて......」
「......広瀬......?」
「知らなくて......雨、降るなんて......」
「......」
彼の瞳に、車のヘッドライトの光が映り、キレイに揺れた。
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