1572人が本棚に入れています
本棚に追加
激しい雨の音と、水しぶきをあげながら走る車の音だけが、響いていた。
「......ビックリした......吉岡くん、いるから」
「......」
「......濡れちゃった」
彼を見上げて微笑む私の頬に、雨ではない、熱い雫がポロポロと流れる。
どうして、ここにいるの......?
なに、してたの......?
言いたいのに、これ以上言葉が出ない。
瞳を揺るがせた吉岡くんが、そっと腕を伸ばす。
その指先は、迷う事なく、私の頬にスッと触れた。
右の頬を......左の頬を......彼の温かい指が、静かに拭った。
『広瀬......彼氏いるのに、ホントごめん』
放課後のクラスで、私に触れなかった彼が、私の頬に触れた。
私はただ、彼の悲しそうな顔を、ジッと見つめていた。
.
最初のコメントを投稿しよう!