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「......行くよ」
突然私の右手を取った吉岡くんが、くるりと背中を向け、足を踏み出す。
少しよろけてしまった私は、しっかりと握られた手に驚きながら、慌てて彼の後ろに続いた。
「......あの、どこに......」
「帰るんだろ?家に」
半歩先を歩く吉岡くんは、振り向く事なく言った。
「......あの、一人で......」
「送る」
「あの、でも......」
足を止め、振り向いた彼に、私もビクリと立ち止まる。
「嫌なら、俺の家に連れてくけど」
「......え?」
「どうすんの」
......どうすんの、って......
吉岡くんの、その怒っているような顔と声に、私は、静かに顔を下に向けた。
「......帰る」
「ん」
握った手にギュッと力を入れた吉岡くんが、再び足を踏み出す。
初めて繋がれた、吉岡くんの左手は、すごく温かくて......少し、痛かった。
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