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「......お家の人、まだ帰ってないの?」
自宅に着くまで「どっち」と道を尋ねる言葉しか発しなかった吉岡くんは、家の小さな門の前で言った。
私は、彼の隣りで、ぼんやりと自分の家を眺めた。
「......いないの」
「......え?」
相変わらず、全ての部屋が、真っ暗だった。
「......誰も、いなくて......」
「......どういう事?」
電気をつけるのも、カーテンの開け閉めも、私以外は誰もする人がいない家。
住み慣れたはずの、時間が止まった暗く静かな家が、今は、私の涙腺を再び弱める。
「......パパも、お母さんも、いなくて......」
「......」
胸の奥が、苦しくなる。
「......きっと......また一人にっ......」
堪えきれずに下を向いた途端、一度止まったはずの涙が、濡れたアスファルトにパタリと落ちた。
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