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プリントが半分程埋まった頃。
「おはよう、広瀬」
いつもの涼しい声に、私は辞書を捲る手を止め、パッと声の元を振り向いた。
「おはよう、吉岡くん」
彼の柔らかい笑顔に、私の頬も、自然に緩む。
「どうしたの?今日は早いね」
「うん、早く来て、英語のプリントをやろうと......」
......あっ、やば......
彼の笑顔に見惚れ、つい口走ってしまった私は、慌ててその口元を覆った。
鞄を机に置いた吉岡くんが、チラリとこちらを振り向く。
「またやって来なかったの?」
「......あの、やって来なかった、というか......英語の辞書持ち帰るの忘れちゃって、出来なかった、というか......」
「つまりやって来なかったんだろ?」
「......」
吉岡くんのもっともな言葉に、思わず口をつぐんだ私の横で、
「っていうか、隣りの席で丸見えなんだから、隠しても仕方ないと思うけど」
呆れたように言った吉岡くんは、冷ややかな目で、こちらを見下ろした。
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