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そのまま黙ってこちらを見つめていた吉岡くんが、再びスッと顔を伏せる。 あれ...... お、怒ってるわけじゃないよね...... ちょっぴり不安になっていた私の横で、 「......広瀬」 俯いたままの吉岡くんが、小さく口を開いた。 「......う、うん?」 「俺、さ......」 「......うん」 「俺......広瀬の事......」 「......うん?」 な、なに......? ドキドキしながら次の言葉を待っていると、ゆっくりと顔を上げた吉岡くんは、 「......やっぱいい。帰ろうか」 スクッと立ち上がり、一人、さっさと鞄を手に取った。 え、終わり......? 座ったまま、ポカンと固まっていた私に、 「何してるの。置いてくよ」 吉岡くんが、チラ、と冷たい視線を向ける。 「え......ちょ、待ってっ......」 な、なんなの、一体...... 慌てて席を立った私は、スタスタと歩き出した彼の後を、パタパタと追った。 誰もいない廊下を、二人で並んで歩く。 途中、吉岡くんは、 『今日は仕方なく貸したけど、宿題見せるの、ホントに今日で最後だからね』 『大体、辞書を忘れて帰る時点でやる気がないんじゃないの』 『期末の勉強も、やってないんだろ』 歩きながら、いつものように、クドクドと小言を並べた。 けれど私は.....いつもよりちょっと早足で、いつもよりちょっと喋り過ぎな吉岡くんが、なんだか気になって...... 彼の言葉が、あまり頭に入らなかった。 .
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