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「お待たせ、尚ちゃん」
ぼんやりと携帯を弄っていた私は、不意に頭の上から聞こえた声に、ビクリと顔を上げた。
「ごめんね?出掛けにちょっとバタバタしちゃって......」
「......あ、いえ......」
約束の時間より20分程遅れて来た彼女から目を逸らし、携帯をバックにしまう。
私は、ちょっぴりの緊張感を抱えながら、椅子の上で姿勢を正した。
今から1時間程前の電話で、私は彼女に呼び出された。
一瞬、電話に出る事さえ躊躇したものの、私も彼女に聞きたかった事がある。
私は、勇気を出して、『久しぶりに会いたいんだけど......』という、彼女からの申し出を受け入れた。
私の正面に座った彼女が、先程の店員にアイスコーヒーを注文し、ニッコリとこちらに向かって微笑む。
「久しぶりね?尚ちゃん、元気だった?」
......元気なわけ、ないじゃない......
今では嫌みたっぷりに見える彼女の笑顔に、
「......はい」
私は、小さく答えた。
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