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リビングの扉から、奥に続くキッチンをこっそり覗いていた私は、
「......!」
コンロの前で携帯片手に振り向いた吉岡くんに、ビクッと震えた。
「......なにしてんの」
携帯を耳から離した吉岡くんが、じろりと私を睨む。
「......あの、気になって......」
「寝てろって言ったろ?」
「......ちょっとだけ、見たい......」
「ダメ。さっさと戻る」
「......」
「広瀬」
「......」
「......怒るよ」
「......」
......やだ。
吉岡くんに怒られたくなかった私は、すごすごと階段へと向かった......振りをして、そろりと壁際に隠れた。
先ほどから吉岡くんは、携帯を持ちながらキッチンに立っている。
会話の内容からして、誰かにお粥の作り方を聞いているのだとわかった。
再びこっそり覗くと、携帯を耳に当てた吉岡くんが、コンロの前で「何分だっけ?」と電話の向こうに問いかけている。
私は、料理が苦手な彼の背中に、心の中で『ありがとう』と声をかけた。
もう少し見ていたい名残惜しさを感じながらも、おとなしく2階へと向かう。
自室に戻り、勉強机の上のコンビニ袋を見た途端、私の胸がまたキュッと詰まった。
先ほど吉岡くんが『お前が風邪って言うから......』と、困ったように机に置いたそれの中には、ヨーグルトやプリン、清涼飲料水が入っている。
大した事がないとメールを送ったはずなのに、熱冷ましの冷却シートや、2種類の風邪薬、栄養ドリンクも入っていた。
私は、彼に嘘をついた事を心から後悔し、
「......ホント私、最低......」
小さく呟いた。
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