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勉強机の椅子に座り、卓上鏡を覗き込む。
左頬に貼られた大きなガーゼは『目の近くは湿布だとしみるだろ?』と、吉岡くんが貼ってくれた。
布団の中で散々泣いた後、覚悟を決めてベットから起き上がった私を見て、彼は当然のごとく、その目を見開いた。
『ごめん、見苦しいよね』
苦笑しながら、横髪を引っ張り頬を隠した私に、吉岡くんは、
『そうじゃなくて......』
キュッと唇を噛み締め、その続きを言わなかった。
すぐに『救急箱、どこ?』と立ち上がった彼は、どこからか探した袋に氷を詰め、それを包むタオルも一緒に持ってきてくれた。
吉岡くんに、呆れられるだろうか......
吉岡くんに、叱られるだろうか......
吉岡くんに、嫌われるだろうか......
同じベットに座った彼に手当てをされながら、不安に押し潰されそうな気持ちで昨夜の事を話した私に、吉岡くんは、どの反応も見せなかった。
玄関の鍵を開けてしまった事を謝る私に『怖かったんだよな......』と目を細めた。
ケガをした事を謝る私に『早く治そう......?』と微笑んだ。
風邪だと嘘をついた事を謝る私に『今度嘘ついたら本気で怒るから』と私の鼻をギュッとつまんだ。
吉岡くんは、私の頭の後ろを片手で押さえ、もう片方の手で、左頬を冷やしてくれた。
間近で目が合う度に、無言で口角を上げる彼。
私はその近さにドキドキしながらも、茶色い瞳が小さく揺れる度に、涙が出そうになった。
頬を冷やした後、ガーゼを貼ってくれた吉岡くんは、左腕の赤紫の痣に、湿布を貼ってくれた。
私は、されるがままに手当てをしてもらいながら、彼に心配をかけた事を......彼を不安にさせた事を......ただ後悔し、反省し、謝る事しかできなかった。
そんな私を一切責めなかった吉岡くんは、最後にもう一度、私の頭にポン、と手を置き、悲しそうに微笑んだ。
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