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青い巾着を手に、梨花の席に座った吉岡くんを、ワクワクしながら見つめる。
「でさ、尚。明日なんだけど、いいよね?」
「うん......」
巾着に手をかけ、お弁当を取り出す彼。
「石田の希望は唐揚げだからねっ?あとさ......」
「うん......」
お弁当の蓋を開けた吉岡くんは、その瞬間、目をパチクリし、遠くから私にジロリと視線を向けた。
思わずぷっと吹き出してしまう。
ホントに入れちゃったもん。
唐揚げと卵焼きだけじゃなくて、ナスもちゃんと食べてよね?
昨夜の驚くようなキスと、朝からたくさんドキドキさせられた仕返しに、私はこっそり、炒めたナスをお弁当に仕込んでいた。
キッチンにナスあって良かった。
吉岡くんのビックリ顔、朝から楽しみにしてたんだよな。
ムッと私を睨み続ける彼に、なんだか、初めての勝利に近い喜びを感じてしまう。
嘘じゃないよね?吉岡くん。
ちゃんと、自分で完食してよね?
ふふん、と彼に視線を送り返していた私は、
「てか尚っ!聞いてんのっ!?」
梨花の大きな声に、ビクリと振り返った。
「え......な、なに?」
「なにじゃなくてっ!あんたさっきから私の話全然聞いてないでしょっ!」
「あ......き、聞いて、る......」
思い切り頬を膨らませている梨花を前に、途端に小さく縮こまる。
「じゃあ明日、一旦家に戻ってから、1時にこの前のスーパーに集合でいいよねっ?」
「......スーパー?」
キョトンと彼女を見つめると、
「もうっ!やっぱり全然聞いてないじゃんっ!明日また尚んちでみんなでご飯食べようって言ったのっ!」
梨花は、恐ろしい顔で私を睨み付けた。
「あっ、ごっ、ごめ......え、明日?」
「もう......」
呆れたように、大きくため息をつく梨花。
「明日さ、終業式で午前で終わるじゃない?だから、石田と吉岡とまた4人で集まって、尚んちでご飯食べよう、って。石田が」
「あ......そ、そっか......へっ?」
梨花の話の意味を理解した私は、握った箸を、ポロリと落としそうになった。
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