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「あいつが後ろだとうるさいけどさぁ......でも、やっぱり私にとっては、あの席は特等席だったかも......」
石田くんの方を見つめながら、呟くように話す梨花。
特等席、か......
私も、そうだったな......
私にとっても、毎日彼の隣りに座っていられるこの席は、他の誰にも譲りたくない、奪われたくない、大切な、大好きな、特等席だった。
「また......石田くんと、近くの席になれるといいね」
「......うん......けど、さすがにそんなうまくはいかないよ......」
梨花が、珍しくシュンとした様子で、小さく笑う。
たかが、クラスでの席が離れるだけ。
けれど......いつでも、どこでも、できるだけ好きな人の側にいたいという彼女の気持ちは、私にも、十分過ぎるほど理解できた。
梨花......石田くんのこと、ホントに大好きなんだね。
彼女の横顔を見つめながら、
「ねぇ梨花。明日は、梨花が唐揚げ作りなよ」
ちょっぴり寂しそうな顔をしている梨花に、提案してみる。
「......え?」
吉岡くんには、事情を話して、一旦うちに来てもらえばいいもんね。
明日の4人での集まりが、なんだか楽しみになった私は、
「石田くんのリクエストだもん。私が作るより、梨花が作った方が、石田くん、喜んでくれるんじゃない?」
キョトンとしている彼女の顔を覗き込んだ。
「......でも、私......尚みたいに、料理上手じゃないし......」
「そんなの関係ないよ。彼女の手料理を喜ばない彼氏はいないよ?」
「......でも......もし失敗したら......」
「私も手伝うから大丈夫だよ」
「......でも......もし不味いとか言われたら、凹むし......」
「そんな事言われないよ」
「......でも......」
珍しくモジモジする梨花が、たまらなくかわいく見えてしまう。
クスリと笑ってしまいそうになった私は、無理矢理顔を引き締め、
「もうっ、でもでも言わないっ。明日は梨花が作る事っ」
ぷいっと彼女から顔を背けた。
「......」
「......」
「......」
あ、あれ?
怒った......?
無言になった梨花に急にドキドキしながら、そろりと顔を戻す。
吉岡くんの席に座り、目をパチクリしていた梨花は、
「なんか......尚、変わったね」
ポツリと呟いた。
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