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「え、なんで一回取り出すの?」
「二度揚げした方が、カラッと美味しく仕上がるの」
「へぇー......わかったっ」
梨花と二人でこそこそ話をしながら、チラリとリビングに目を向ける。
ソファーに座り、テレビを見ながら、バリバリお菓子を食べている石田くん。
その隣りで、同じくテレビを見ながら、コーヒーを飲んでいる吉岡くん。
手伝うと言い張っていた男子二人を梨花に一喝してもらい、今日は、私と梨花の二人でキッチンに立っていた。
石田くんに、梨花が作ったってバレないようにしないとね。
石田くんの驚く顔を頭に浮かべなから、こっそり笑いを堪える。
「じゃあお味噌汁はできたから......あ、私、おにぎりでも作ろうかな」
手伝い役に回っていた私は、なぜかリクエストに『白いご飯と味噌汁』と答えた吉岡くんの為に、すでに炊き上がっていた炊飯器の蓋を開けた。
もっと凝った料理も作れるのに。
白いご飯とお味噌汁って、普通すぎるよ......
彼のリクエストにちょっぴり不満を抱えながら、勝手に白いご飯をおにぎりに変更する。
「あ、そう言えばさ、結局藤島に携帯の番号教えたの?」
「えっ?」
梨花の不意打ちの質問に、私は思わず、手にしたしゃもじを落としそうになった。
「なんか今日しつこく聞かれてたじゃん。明日から夏休みで会えなくなっちゃうから、連絡先教えてー、広瀬さぁーん、って」
「......うん......でも私、今日携帯家に忘れて行ったから......」
咄嗟に、藤島くんに言った嘘と同じ言い訳をする。
「もう......自分の番号くらい覚えておきなよ」
菜箸で唐揚げを取り上げていた梨花は、私にチラリと呆れ顔を向けた。
「うん......」
「あ、でもそういう問題じゃないか。いくら友達と言えども、藤島に番号教えたりなんかしたら、祐也くん嫉妬するかもしれないもんねっ」
ニヤリとする梨花から、そっと顔を逸らす。
「......祐ちゃんは......嫉妬なんかしないよ......」
「え?......あ、そっか。祐也くん大人だから、それくらいで嫉妬なんかしないか」
「......」
そうじゃなくて......
祐ちゃんは、もうずっと前から、私のそんな事になんか、興味ないよ。
お金と身体だけのつき合いだったんだもん。
私の頭に、これまでに何度も見た、彼の冷たい顔が浮かんだ。
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