32

2/20
前へ
/1362ページ
次へ
「え、なんで一回取り出すの?」 「二度揚げした方が、カラッと美味しく仕上がるの」 「へぇー......わかったっ」 梨花と二人でこそこそ話をしながら、チラリとリビングに目を向ける。 ソファーに座り、テレビを見ながら、バリバリお菓子を食べている石田くん。 その隣りで、同じくテレビを見ながら、コーヒーを飲んでいる吉岡くん。 手伝うと言い張っていた男子二人を梨花に一喝してもらい、今日は、私と梨花の二人でキッチンに立っていた。 石田くんに、梨花が作ったってバレないようにしないとね。 石田くんの驚く顔を頭に浮かべなから、こっそり笑いを堪える。 「じゃあお味噌汁はできたから......あ、私、おにぎりでも作ろうかな」 手伝い役に回っていた私は、なぜかリクエストに『白いご飯と味噌汁』と答えた吉岡くんの為に、すでに炊き上がっていた炊飯器の蓋を開けた。 もっと凝った料理も作れるのに。 白いご飯とお味噌汁って、普通すぎるよ...... 彼のリクエストにちょっぴり不満を抱えながら、勝手に白いご飯をおにぎりに変更する。 「あ、そう言えばさ、結局藤島に携帯の番号教えたの?」 「えっ?」 梨花の不意打ちの質問に、私は思わず、手にしたしゃもじを落としそうになった。 「なんか今日しつこく聞かれてたじゃん。明日から夏休みで会えなくなっちゃうから、連絡先教えてー、広瀬さぁーん、って」 「......うん......でも私、今日携帯家に忘れて行ったから......」 咄嗟に、藤島くんに言った嘘と同じ言い訳をする。 「もう......自分の番号くらい覚えておきなよ」 菜箸で唐揚げを取り上げていた梨花は、私にチラリと呆れ顔を向けた。 「うん......」 「あ、でもそういう問題じゃないか。いくら友達と言えども、藤島に番号教えたりなんかしたら、祐也くん嫉妬するかもしれないもんねっ」 ニヤリとする梨花から、そっと顔を逸らす。 「......祐ちゃんは......嫉妬なんかしないよ......」 「え?......あ、そっか。祐也くん大人だから、それくらいで嫉妬なんかしないか」 「......」 そうじゃなくて...... 祐ちゃんは、もうずっと前から、私のそんな事になんか、興味ないよ。 お金と身体だけのつき合いだったんだもん。 私の頭に、これまでに何度も見た、彼の冷たい顔が浮かんだ。 .
/1362ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1573人が本棚に入れています
本棚に追加