32

3/20
前へ
/1362ページ
次へ
「てかさ、夏休み、また祐也くんちで過ごすの?春休みはほぼ毎日通ってたよね?」 「......祐ちゃん......忙しいから......」 「え、祐也くん今、大学3年でしょ?もう就職活動とかしてんの?」 「......わかんない、けど......」 「は?彼氏のことくらいちゃんと把握しておきなさいよっ。いつも頼ってるばっかりじゃなくて、そろそろ尚も、ちゃんと祐也くんのこと支えてあげないとダメじゃんっ」 「......うん......」 嘘ばかりを重ねる私の胸が、まるで何かに突き刺されたかのように、ズキンと痛む。 今......本当の事を話したら、梨花はどんな反応を示すだろう。 ......長い間、嘘をついてきた私を、激しく責めるだろうか。 それとも、私を心配し、悲しそうに、その顔を歪めるだろうか。 フーフーしながら唐揚げをつまみ食いする梨花を見つめていた私は、 ......ダメだ、言えない。 そっと自分の手元に目線を戻した。 ちゃんと別れてからじゃないと......何もかも、過去の事にしてからじゃないと......梨花に、ますます心配かけちゃう。 ......ごめん、梨花...... 小さくため息をついた私の後ろから、 「できた?」 不意に、柔らかい声が聞こえた。 「あ、吉岡くん」 くるりと振り向くと、 「俺、メチャメチャお腹すいた......あれ?おにぎり?」 私の手元に目を落とし、不思議そうな顔をする彼。 「うん......白いご飯じゃ、寂しいかと思って......嫌?」 「嫌なわけないだろ?中身、何?」 吉岡くんは、にこりと微笑んだ。 彼の優しい顔に、一気に私の心が癒やされる。 「えっと......梅干しと、ツナ缶しかなくて......」 「うん、どっちでもいい」 「あ、じゃあ......」 「あ、でも石田のは梅干しにして?」 吉岡くんの声に、コンロの火を止めた梨花が、突然プッと吹き出した。 「え?なに?梨花」 「へ?ううん、なんでもないっ。そう言えば石田って、梅干しのおにぎり大好物なんだよねっ?吉岡っ?」 「うん」 スッと腕を伸ばし、梅干しを摘む吉岡くん。 そうなんだ...... 「わかった。すぐできるから、もうちょっとだけ待ってて?」 私は、梨花と同じく、パクリと梅干しをつまみ食いする彼の隣りで、せっせと梅干し入りのおにぎりを握った。 .
/1362ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1573人が本棚に入れています
本棚に追加