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「美味いっ!さすが広瀬っ!」
「ホント?」
「うんっ。この下味の付け方とか、カリカリなのに中はジューシーな感じとか、マジ美味いっ」
ニコニコ笑顔の石田くんの言葉を確認した私は、
「......だって?良かったね?梨花?」
彼の隣りでちょっぴり頬を染めている梨花に、ニヤリと視線を送った。
「は?なにが梨花?」
「その唐揚げ、梨花が作ったんだよ?」
「......え」
ピタリと動きを止める石田くん。
「彼女の手料理に感動した?」
「......えっと......広瀬が作ったんじゃなくて?」
「うん」
「......梨花?」
「うん」
「......こいつ、手伝っただけじゃなくて?」
「うん。私、一切唐揚げには手出ししてないよ?最初から最後まで、全部梨花が一人で作ったの」
「......」
疑い深く、何度も確認した石田くんは、
「......どうりで変な味すると思った」
突然ボソッと余計な言葉を呟いた。
「......は?」
キュッと眉間に皺を寄せる梨花。
「なんか......かろうじて食えるけど、なんつーか......不思議な味っつーか......やっぱ、普段あんま料理しないのが表れてるっつーか......」
「......」
い、石田くん、マズいよ......
ボソボソ余計な言葉を連ねる素直じゃない彼に、必死に目で訴えていると、
「......食べなくていい......」
隣りの梨花も、ボソッと呟いた。
と思った瞬間、
「食べなくていいわよっ!てか口に入れてるもの出しなさいよっ!!」
梨花は、いきなり石田くんの胸倉を掴み上げた。
「おまっ、やめ......」
「うるさいっ!食べるなっ!」
や、やっぱり始まった......
「石田のバカっ!最低っ!」
「じょ、冗談だって......」
「もう絶対あんたの為に料理なんかしないっ!」
「だ、だから、嘘......」
「ホント最低っ!大っ嫌い!」
「ちょ、り、梨花っ、お味噌汁こぼれちゃうっ......石田くんも、ちゃんと謝って......」
喧嘩を始めた二人を、オロオロしながら制する。
「あ、同じだ」
「はっ?」
私と梨花と石田くんの三人は、不意に聞こえた声に、パッと顔を向けた。
目線の先には、一人冷静に、箸で摘んだ唐揚げを見つめている吉岡くんが見える。
ふと顔を上げた彼は、
「この唐揚げ、昨日の俺の弁当に入ってたのと同じ味がする。なんでだろ」
私達に向かって、にっこりと微笑んだ。
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