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*** もう......私、チビじゃないもん。 というか、あれから身長伸びて、今、154センチもあるし。 ......でも梨花は、162センチって言ってたな...... いいなぁ、背が高いって。 小学校の卒業アルバムを手にした私は、小さく口を尖らせながら、リビングに戻ろうと、自室のドアを閉めた。 そう言えば、吉岡くんって、身長何センチなんだろ。 175センチくらいかな......いや、もっと大きいか。 後で、聞いてみようかな。 ぼんやりと考えながら、階段を降りる。 両手でアルバムを抱えていた私は、ふと視界に入った動きに、顔を上げた。 お客......さん? 玄関の磨り硝子の向こうに、今、確かに人影が見えた気がする。 あれ、珍しい...... 滅多に来客がないこの家に、チャイムが鳴り響く事を予感した私は、思わず階段の途中で立ち止まった。 ジッと扉を見つめる。 カタン、という小さな音のすぐ後に、チャイムは鳴らされる事なく、再び硝子の向こうを、さっと人影が横切った。 硝子越しにも、それが、黒い服を着た、長い髪の女性である事がわかる。 ......え...... う......嘘...... ドクン、と、一度大きく心臓が跳ねたかと思うと、頭が真っ白になった私の手から、スルリとアルバムが抜け落ちた。 立ち尽くす私の耳に、ガタガタとアルバムが転げ落ちて行く音が聞こえる。 え......まさか...... 私の心臓は、急にドクドクと激しく脈打ち始めた。 そんな、わけ...... 足を踏み出そうとしたものの、なぜか鉛のように重いその足を、踏み出す事ができない。 あ......や、やだ...... 行かないで...... 待って...... ハッとした私は、慌てて階段を駆け降りた。 裸足のまま玄関に降り立ち、両手で思い切り扉を押し開ける。 外に一歩足を踏み出した私は、家の門に小走りで向かう、小さなその背中に、 「お母さんっ!!」 咄嗟に叫んだ。 ビクッと肩を震わせ、足を止める女性。 「......お母......さん......?」 呟くように、もう一度口を開いた私の目線の先で、ゆっくりとこちらを振り向いたのは...... 紛れもなく、9ヵ月ぶりに見る、私の母だった。 .
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