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チャイムが鳴り響く廊下を、私は、首に手を当てたまま、俯きながら走った。 「......っぶなっ!」 すれ違った生徒が、驚いたように身を捻り、私の身体をかわす。 長い廊下を走り抜け、突き当たりを左に曲がった私は、急いで女子トイレへと駆け込んだ。 個室に入り、ガチャ、と勢いよく鍵を閉める。 その瞬間、私の身体は、ズルズルと床へと滑り落ちた。 「......」 なに、してるんだろう、私...... 両手で抱えた通学用鞄に、パタパタとシミができる。 『鏡くらい、見てきなよ。女の子なんだからさ』 彼の声が、グルグルと頭の中を回った。 ぼんやりしたまま家を出て来てしまった事を、今さら激しく後悔する。 静まり返るトイレの中。 「もう......やだ......」 溢れる涙を拭う事も忘れた私の嗚咽が、小さく響いた。 .
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