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「…母ちゃん。」
これは何年前の話だろうか。誰の記憶であろうか。
母はだいぶやつれていた。喪主と思しき席に座っている。
俺の母ちゃんの母親も父親も健在だ。だとしたら…
すると囁くような声が聞こえてくる。
「それにしても美智子さんは災難よね。」
「そうね、ハルカちゃんに続き旦那さんも。」
世話好きのおばちゃんらしい風貌の二人には見覚えがない。誰だろうか。
…つーかこれ、俺の親父の葬式なんだ。
遺影に目を向けると俺と同じちょっと白髪は混ざってるけど黒髪にやさしい黒い瞳が印象的な男だった。
俺は親父の話を聞いたこともなければ、見たこともない。
記憶にないんだ。だけど思い出そうとは思えなかった。物心ついた時から母ちゃんのために聞いちゃいけないと思っていた。
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