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そして一回意識が途切れた。夕日だろうか、とても眩しい。母ちゃんの服が変わってないということはその日の葬式が終わった後だろう。
母ちゃんと先ほどの少年は同じ部屋で向かいあっている。今の生活から考えられそうもないほど豪華な家であった。シャンデリアが夕日を浴びて紅色に光っている。
しかし双方目線は決して合わせない。
「ねぇ、君。」
美智子はやっと少年に目を向け話しかけた。
少年に反応は見られない。
「今君に何を言っても届かないのはわかってる。でも、聞いてほしい。」
一度間を開けると美智子は話し出した。
『朱い瞳のうさぎは嫌いよ。でもね紅い瞳のうさぎはきらいじゃないわ。』
ほのかに美智子が微笑むと少年は顔を上げた。夕日と同じ紅い瞳を美智子にむける。驚いたようにそして感激したように。
そして少年は涙をいくつもいくつも流した。
美智子はそんな少年を抱きしめながら言った。
「今日からあなたは遥。意味はきっと今のあなたにはわからないだろうから覚えていたら大きくなったとき教えてあげる。」
そして
「きっと無理だけどね」
と自傷的に微笑んだ美智子は少年にとって母となった。
少年とは俺だ。
きっとこれは俺の記憶俺の記憶なんだ。
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