その幕開け

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わけがわからないエドガーに向かって彼女はさらに言った。 「その人は限界のはずだ」 その言葉にエドガーが振り向くと、そこには顔を真っ青にしたハミルトンがいた。息も荒い。 「大丈夫か、ハミルトン!」 「え、ええ…」 かろうじて返事をすると、彼は意識を失った。 「私の力にあてられたんだろう。ここから離れて休ませれば元に戻るはずだ」 後ろから聞こえた声にふと顔をあげると、いつの間にか開いていた赤い目と視線がぶつかる。 「早く行った方がいい。手遅れになっても知らない」 エドガーは意識を失ったハミルトンを肩に担ぐとその場を後にした。  立ち去る直前、小さく聞こえたのは   一一もう私のせいで人が死ぬなんて懲り懲りだ………一一 という、とても…とても小さな声だった。 少女はまだ十代前半だろう。にも関わらず幹部候補であったという彼女にはその年頃の少女が持つ子供らしさがごっそりと抜け落ちていた。大人ぶっているのではない。事実大人なのだ。いや、彼女は子供であることを許されなかったのだろう。過酷な環境で生き残る為には。 けれど、風に紛れそうな泣きそうな小さな声は確かにエドガーの耳に届いた。
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