祖母の部屋

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祖母の部屋

チビが逝ってから、祖母の物忘れが酷くなった。 いつも家で留守番していたのは、チビと祖母。『私はチビの召使いじゃない』と、よく嘆いていた祖母だったが、チビが亡くなってしまったせいで、元気がなくなってしまった。部屋にこもりっきり。入り口の重たいスライドドアは、いつも閉まっていた。たまに心配になって開けると、炬燵に入ったまま、祖母はじっとしていた。話しかけてはみるのだが、途中から怒り出してしまうので、すぐに部屋を出なければならなかった。怒らないときは、話を色々することができるが、話題は『死』の事ばかり。涙を滲ませながら話していた。 祖母は母の親。若くして夫を病気で亡くしている。僕が物心ついた頃、一緒に暮らし始めた。両親が共働きだったせいで、祖母がいつも僕の世話をしてくれた。だが、僕は小学校の行事に、祖母が来るのが嫌だった。みんな、若いお母さんが来ているのに、僕だけ違う。寂しくもあり、恥ずかしくもあった。 祖母は人付き合いが苦手な人だった。その上、住んでいるのは故郷を遠く離れた地。しかも新興住宅地なので住人の世代が違った。当然ながら友達がいなかった。だから、家族だけが唯一の話し相手だったはず・・・。それなのに、僕はどれほどの会話を祖母としたのだろうか・・・。今考えると、身を引き裂かれそうになる。 僕はそのことがわかっていたはずだ。でも、祖母の部屋に立ちはだかる重いスライドドア前に、躊躇いばかりが先行していた。僕の心にまで重いドアの隔たりを作っていた事、今更後悔しても、もうどうすることもできない。
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