長男

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長男

長男は次男に比べ、最初は可愛がられたと思う。最初は、というのは、次男が生まれるまでの間という事。初の僕たちの子であり、僕の親にとっては初孫。当初は寵愛と恩恵を独り占めできた。しかし、次男の誕生により状況は変わってゆく。周りの関心は、長男から次男へと移行していったのだ。長男の活動範囲の拡大とは反比例して、次男中心の生活が始まると、長男にはストレスが溜まっていった。それまでは、長男中心だったのだから、『あれ? どうしたんだろう?』と思ったに違いない。僕も長男なので、同じ経験をしたことがある。周りが妹への関心を示すようになると、 僕は妹に嫉妬した。可愛がられている妹を見ると、僕への愛情は無くなったのではないか、また『どうして僕の方をみてくれないんだろう?』などと思ったものだ。長男の気持ちはよく分かる。だから、嫉妬し始めた長男に、僕は『お兄ちゃんなんだから』という言葉を使った。 『お兄ちゃん・・・』と長男に言い含める事で、次男に対して芽生えた嫉妬心を削ごうと思ったのだ。 しかし、確かに親にとっては便利な言葉だが、あまり多用したのは良くなかったかな、と思う。『お兄ちゃんなんだから』は長男にとって人生最初の行動規範となったようだ。親に甘えてはいけないんだ、と考えさせてしまったのかもしれない。妻が次男をあやしていた時、遠目でじっと見つめる長男の顔が、寂しげだった。 そういえば、玄関にテッシュが散らばっていた事がある。僕はすぐに長男を叱りつけた。『おにいちゃんなんだらこんなことちゃ、だめじゃないか! 』その日2度目の説教だった。別件でしっかり説教したのに、またやってしまった。僕はきつく叱ったと思う。長男は何も言わなかった。 あとになって、妻が『もしかしたら、あなたの靴を磨いていたのかも』と言った。確かにテッシュは少し黒ずんでいた。なるほど、長男は妻が僕の靴を磨く姿を見ていて、真似をしたのだ。あいつなりに『お兄ちゃん』を実践したのだろう。気づかなくてごめん。
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