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ギリリ、ギリリ〰
不安定な脚立の上にまたがった状態で柱と梁を合わせるボルトを締め付けていた。
12月というのに額にはジットリと汗が滲んでいた。
見上げると、まだ屋根のない柱のあいだには、手が届きそうなくらい低い空が広がっていた。
『一茶~!一息入れよーぜ~!』
俺の頭のさらに上、二階の梁に登っていたプチオヤジが頭に巻いたタオルをほどきながら呼んでいた。
俺、小林一茶。十八歳!
十六の頃から春、夏、冬休みバイトがてら親父の建築業を手伝っている。
大工仕事も大分、板についてきた。
夏休みの炎天下の中は冗談抜きでキツかった〰。
ただ、冬休みのこの時期も、寒さとの戦いでツラいものがある。
なんと言っても冷えて指先の自由がきかない。
『へ~ぃ!ココんとこ片付けたら下りるょ~!』
ボルトをもう一度、増し締めして⑱番のラチェットを腰袋に放り投げようと脚立の上で体を反転させた。
『アッ!』
その時、ニッカズボンのポケットからケータイがスルリと顔を覗かせた。
パカ~ンッ!
急いで脚立の上から飛び降り、土間の上に叩きつけられたケータイを拾い上げた。
右下の角付近に痛々しい擦り傷が目立った。
裏のバッテリーカバーが衝撃で外れていた。
3㍍ほど先に跳ばされたカバーを拾おうと手を伸ばしたら、
『ん?なんだコレ?』
カバーの裏側に一枚のプリクラが貼られていた。
タイミングの合ってない笑顔の一茶とダブルピースで寄り添う女子との②shot。
『…アイツ、いつの間に!』
バッテリーを収め電源が入る事を確かめながら、俺は薄くハニカミを見せていた。
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