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寮の管理人室。
葵に背を向け耳に当てた携帯電話から、翔の声が聞こえる。
『拓己は何て?』
「それが、友達の所に行くという事以外何も言わなかったらしい」
『雄さん……』
翔が飛鷹に事情を説明する。
黙って聞いていた飛鷹は、翔が話を終えると静かに肯いた。
「そうか……。とにかくDVDを持って来い」
「飛鷹さん。何があったんですか?拓己、また何かやったんですか?」
携帯電話をポケットへ戻すと、直ぐに葵が訊いた。
が、今しがた聞いた話を伝えるのはあまりに残酷で、飛鷹は口を閉ざした。
しかし間もなく翔と一緒にやって来た明日香の姿を見た時、葵は事実を知った。
ダブダブの翔のトレーナーを着た明日香。
目元も赤くなっていて――
途端に葵はその場にしゃがみ込むと、肩を震わせて泣き出した。
理由や結果はともかく、拓己がそういう行動を取ったという事が葵にはショックだった。
小さい頃からいつも後を追って来た可愛い弟が、別人になった気がした。
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