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研究所から脱走して1ヶ月が経った。
どうやら其所は事故か何かで崩壊したらしい。新聞の隅に小さく記事が載っていた。俺はそれをぼんやりと眺めながらコップに半分ほど残っている麦茶を飲み干した。
あいつは……元気かな。
あの場所で知り合った奴の中で、あいつはそれなりに親近感がわく唯一の人間だった。
心が少し ぽかぽかするような感覚がする。
だが、それも真っ黒な冷たい闇の記憶に呑み込まれていく。──
──たった1人、実験室に隔離され麻酔の注射を打たれる。周りには薬品の棚。研究者が死んだ魚のような目でこちらを見ている。
やめてくれ!俺はじたばたと暴れた。麻酔が不充分だったようだ。まだ動けた。起きあがって2、3人を突き飛ばし、冷たい扉に手をかける。
だが……
背中の中央に鋭い痛みを感じた直後、俺は意識を失った。
そして目が覚めたら
能力者になっていた。
──残像を振り払うように俺は頭をわしゃわしゃとかきむしった。
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