桐山景明

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大陸のとある、雪の降り積もる静かな寒村… 秋の収穫を蓄え、後は長い冬を越して春を迎えるべく、冬支度にいそしまれる村人たち 囲炉裏に火を灯して暖をとる者、鶏や牛に干し草を与える者、雪玉を作って遊ぶ子どもたち… それら全てが、この貧しくも穏やかな暮らしに満足していた… そんな雪に覆われた村を、一人の少女が元気よく駆け抜けていく 長い茶髪を揺らす少女は、様々な魚介類がある箱を抱えていた 「お父さん! 今日はこんなにもらえた!」 少女が走り寄った先には、黙々と家畜の世話をする髭をたくわえた父がいた 父は娘の声を聞いて作業を中断し、駆け寄ってきた娘を見る 「おかえり香澄。 ほう…今日はたくさんもらってきたな。 さて、日も暮れてきたことだし、飯支度をしよう。」 香澄と呼ばれた少女は頷き、早速自宅に入って飯支度を始めた この村は人口が少ないため、よく隣人同士が集まって食事を共にしていた 今日は魚を仕入れてきた香澄の家に村人が集まり、料理を囲んで団欒する 「うぃ~ヒック……今日も相変わらず可愛いねぇ香澄ちゃん。」 まだ始まったばかりだというのに、熊みたいなオッサンの顔は、酒で真っ赤になっていた 熊のオッサンは酔っぱらうと何時も香澄に絡み、美人だの可愛いだの言ってくる 「何言ってるんですか…。 お酒もほどほどにしないと、早死にしちゃいますよ。」 香澄はオッサンの褒め言葉を軽く流し、少し休むよう諭しかける 「おれぁ村一番ね酒豪よぉ! こんくらいで倒れるかよ……それより香澄ちゃんは、イイ男は見つけたのかい?」 その問いかけには香澄も困り果て、頬を掻いた 香澄は村一番の美人との評判であり、同年代の男たちをいつも色呆けさせている ただ香澄は色恋沙汰には関心が無く、何より日々の暮らしと、父の手伝いで精いっぱいでそういう余裕はなかった オッサンは香澄にあれこれ言ってくるが、その背後に夜叉が光臨する 「こらアンタ! 香澄ちゃんを困らせんじゃないよ! ロクに働きもしないで、酒なんて呑む資格はないんだよ!」 「お前はすっこんでろ……イタタタ! 耳を引っ張らないで!」 熊のオッサンは女房に耳を引っ張られ、家屋の外に放り出された
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