第20章

10/14
1852人が本棚に入れています
本棚に追加
/453ページ
「うん…。でも、思い出せた?」 優しく、まるで子供に尋ねるように言う由梨に、コクリと頷いてみせる。 けれど涙に邪魔をされて、思うように言葉を紡ぐことが出来ない。 そんな私に、由梨は小さく息を吐くとその場に立ち上がった。 「牛乳もらっていい?」 唐突な彼女の言葉に私はただ頷くことしか出来ない。 由梨は、私の反応を見ると台所の方へと向かっていった。 そして、何かをレンジで温める音が聞こえてくる。 少しの間待てば、先程まで由梨の手に温められていた私の手に、温かなマグカップが乗った。 「ホットミルク。落ち着くよ」 「…あり、がと」 途切れ途切れにお礼を言ってから、ミルクを一口飲んだ。 温かなミルクが、私の喉を通っていくのを感じた。 夏といえど早朝は肌寒い。 ホットミルクが私の心を鎮めてくれる気がした。 「…ど?少しは、落ち着いた?」 「……ん」 頷いて、今にも垂れそうになっている鼻水を啜る。 目が腫れぼったくて上手く開けない。 泣きすぎたせいか、頭には鈍痛があった。 「今から、私がする話……。突拍子もない話なんだけど…聞いてくれる?」 両手でマグカップを握りながら尋ねれば、由梨は優しく笑ってくれた。 私の隣に腰を下ろすと、肩を摩ってくれる。 私は、由梨に全てを話した。 幕末に行っていた事。 それも、1週間なんて短い期間じゃなく、3年半の間。 そして簪を沖田さんに貰ったこと。 沢山の楽しさや、喜びを新選組に教えてもらったこと。 彼らは人斬り集団なんかじゃなく、心の優しい武士だった事。 大好きだった人が、死んでしまったこと。 沖田さんが、結核に苦しんでいたこと。 命を賭けてでも、それを救いたいと思ったこと。 ……そして、一番大切なものを失っていたということ。
/453ページ

最初のコメントを投稿しよう!