第20章

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「茅奈…とりあえずお部屋戻ろ」 私の肩を支えながら立たせてくれる由梨に、素直に従う。 覚束無い足取りで、私たちは部屋へと戻った。 ぼんやりと外は明るみ始めている。 由梨は私をベットの上に座らせると、私の両手を握って床から見つめた。 私の目からは止めどなく涙が溢れていた。 沖田さんと見た、桜、花火、紅葉、雪。 みんなとした鬼ごっこ、寸劇、雪合戦、宴、お花見。 声を出すことが難しかった私に、真っ向から向かってきてくれた人達。 今私が話せているのは、きっとみんなのお陰だね。 私の大切なもの、何を失っても救いたいと… 初めて思えた人。 私の一番大切なものは、新選組のみんなとの生活…そして、記憶。 だから私は今、この時代をみんなの事を忘れたままに生きていたんだ。 そして、沖田さんの病は本当に治ったんだ。 もう一度、戦うことが出来たんだね…。 ”生きてえ” って、初めて彼が零した弱音。 私は彼を僅かでも救う事は出来たのだろうか。 沖田さんは、この簪をどんな思いでくれたんだろう。 本当に結婚指輪のような意味で、私にくれていたの? それとも、やっぱり守るって…それだけの意味だった? それを聞くことは、もう出来ない。 彼らはもう、居ないんだから。 どうしてもっと自分の気持ち伝えなかったんだろう。 こんなに大切に思っている事も、こんなに大好きな事も、こんなに心いっぱいの感謝も…… 私は何も伝えられていない。 何も…伝えられなかった。 「茅奈〜。」 「……うっ…ヒック…由、梨」 涙を手で拭いながらも、私は顔を俯かせていた。 心配そうに、私の顔を覗き込む由梨の顔が写った。 「私…。こんなに…こんなに、大切な、人を……忘れていた」 泣いているせいか、頭が上手く回らなくて順序建てて話をすることが出来ない。 けれど由梨はそんな私の言葉を真剣に聞いてくれていた。
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