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由梨は、ただ静かに相打ちを打ちながら、私の話を聞いてくれている。
疑うでもなく、驚くでもなく。
ただ真剣に話を聞いて、頭の中で整理をしているようだった。
「茅奈…。自分が死んでもいいと思えるくらいに、沖田さんが好きだったんだね」
全てを話終えると、由梨はどこか羨ましそうにそう言う。
由梨の言葉に、私は無意識に目を伏せた。
「…そう、だね。……あの頃の私は、まだ子供で…それが恋愛感情って言うことにすら気づけなかったけど」
「あんたが恋出来なかったのは、忘れてしまっていても…心のどこか深い所に、沖田さんが居続けてたからだったのかもね」
「……でも」
静かに、再び私の頬を涙が伝う。
「もう、居ない。この世界のどこにも…。もう、何も伝えられない」
今更恋心に気づいたって、もう遅い。
あの時、あの瞬間に、彼に伝えられなかった。
それはもう一生この気持ちを伝えられないということ。
もう二度と会うことは無い。
恋心に気づいた瞬間に、失恋をしたような気持ちになる。
「沖田さん…、茅奈を探してたのかな」
「…え?」
「昨日の番組で、言ってたじゃん」
この女性と幸せになれと、この女性を探し出す命を与えたとーーー
昨日のテレビの人達が言っていた考察が頭を過る。
「それは、無いと思う」
やんわりと否定する私に、由梨は不思議そうな顔をしている。
「だって、沖田さんが戦いに行くことを止めさせようとした時、殴られそうになったんだよ?」
沖田さんがどれ程までに、幕府のため、大切な人のために戦いたいと思っていた事、よく知ってる。
だからこそ、私なんかのために戦うことは止めないって、そう思ったんだ。
「そんなに…戦闘狂だったの?」
唖然とした様子で言う由梨に、私は緩く首を振った。
「違うよ」
戦闘狂なんかじゃない。
沖田さんは、人を殺したいだなんて思う人じゃない。
優しさを、持っている人だから。
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