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なんだか真剣そうな彼の趣に、私もかしこまる。
ついてこい、と言われて辿り着いた先は、土方さんの部屋だった。
煙管の匂いが充満していて、空気の良い場所とは思えない。
彼はこんなに空気の悪い所で普段過ごしているのだろうか。
というより、自分で言うのもなんだけれど病人をこんな部屋に招待するのは、どのようなものだろうか…
「天音、とりあえずその辺座れ」
ナチュラルに命令口調の彼の言葉に従って、私はその場に腰を下ろした。
彼は少し崩れた髪の毛をもう一度縛り直すと、私と向き合うように腰を下ろした。
「あいつは…」
「…え?」
唐突に話を始めようとする土方さんに、私は小さく疑問を返す。
土方さんはもしかすると、こんな風に改まって話をするのが得意ではないのかもしれない。
その証拠に、土方さんは落ち着きなく体の末端を動かしている。
「総司は…」
「!!」
話の本筋が沖田さんについてだということを知り、私は自然と目を見開いてしまう。
「昔な、近藤さんとこの道場に引き取られたんだーーー」
* * * * *
「沖田…宗次郎。…きゅうさいです……。よろしく、おねがいします」
ペコリと深いお辞儀をする小さな男の子。
その脇には、総司の姉であるミツが立っていた。
10にも届かぬ子供が、誰も知らない場所へと預けられる。
その頃の総司はよほど辛かっただろうと推測される。
「なんだいあんたは!!まともに掃除もできないのかい!!?」
毎日のように家中に響き渡る近藤の義母の声。
「ごめん…なさい」
その矛先は絶えず総司に向いていた。
冬の寒い夜。
総司はキンキンに冷えた水を使い、床掃除を続けた。
床掃除を終えると次は道場。
その次はお風呂掃除…と
総司に寝る時間は与えられなかった。
毎日水仕事に終われるわずか9つの少年の手は、もはや老婆のようにカサカサに皮がめくれ上がっていた。
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