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にっこり笑って手拭いを返すと、平助くんはなんだか呆れたような顔をしていた。
「いいえ。じゃ、これは俺から返しとくな」
私から受け取った手拭いを、ヒラヒラさせながら平助くんは大広間へ向かっていく。
「…へ?」
先に歩き出した平助くんに遅れをとらないよう、早歩きで彼の横に並ぶ。
「ねえ、平助くんっ」
そう声をかけても、彼は聞こえないふりで鼻歌を歌っている。
「~~~~。もう…」
いじけている私なんて御構い無しに、平助くんは大広間に入って行ってしまった。
変なの~。
大広間への敷居を跨ぐ寸前、誰かからの視線を感じ、不意にそちらに顔を向かせる。
だけど、私は即座に平助くんへと視線を戻した。
おおおおお、沖田さんが…
みみみみ見てる。
いつもシカトで私なんか眼中にも入れる気ないくせに!
なんだか、慣れないことをされると緊張するもので…
私はカチコチになりながら、平助くんの隣に腰を下ろした。
…んだけど…
食べ始めてからも食べてる最中も、沖田さんの視線はずっと私に向いている。
…なんだと言うのか。
私は直ぐにでもその場を立ち去りたい気持ちでいっぱいだった。
しかし、私なんかよりたべるのが早い沖田さんは私が座ってから10分程で席を立った。
彼の膳はほぼ空になっていた。
「総司っ!」
私たちの前を通って大広間を出ようとする沖田さんを、平助くんが引き止める。
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