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「もう…良いん、です」
元々、私は彼に謝ってほしかった訳ではないから。
より一層笑みを深めれば、沖田さんもなんだか安心したように表情を和らげた。
「あ…で、でも。…ひとつだけ…良いですか?」
彼の両の頬から手を離して、自分の膝へと移動する。
正面から彼を見つめると、彼もまた私を正面から見つめ返してくれた。
相槌なんてものはないけれど、彼はちゃんと私の話を聞いてくれている。
そう確信できた。
「私…がんばりますから。…ですから、もう、悲しまないで、下さい…。お願い、です」
私が彼の幼少期に似過ぎているからか、彼は私を見るたびなんだか悲しげな顔をしていた。
それらの全ては、怒りという感情でひた隠しにしていたようだけれど。
あんな顔は、もうしてほしくない。
こんなに、自分に正直な彼だからこそ、あんな悲しげな表情は、させたくないのだ。
そんな、私の切実な願いに、彼は再び目を見開いた。
「悲し…む…って、なんだよ、それ」
信じられない、とでも言いたげな彼の表情。
私は、キュッと拳を握った。
「あなたは、ただただ私に八つ当たりをしてた訳じゃ、無いと、思います」
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