第一話 緋色の狙撃手

3/9
前へ
/9ページ
次へ
 紅く美しい銃口から飛ぶ紅く尖った弾丸は、真っ直ぐに黒いリムジンのタイヤを貫いていく。  黒いリムジンはバランスを失い黒煙を上げながら回転し、壁に激突して爆発。 「緋くは染まらなかったか……なぁんて。しっかし、死体が無いのには驚いたなぁ」  紅く光るスナイパーライフルを折りたたみケースに入れ、また背中に背負い自転車で学園へと向かう。 「やば……もう入学式始まるなぁ」  時間が気になって仕方なく腕時計に目を向けると、交差点から人が出てきた。 「あ、危ないぃぃ!」 「ひゃあぁぁぁ!」  とっさに方向を変えて、電柱へと衝突する。  出てきた人は無傷だ。 「あ、ごめんなさい。急いでたもので……」  緋色が謝罪と共に相手と目を合わせる。 「お前……さっき黒いリムジン潰さなかったか?」 「へ? あ、はい。マシンガン窓から出てて、狙われてるような気がしたので……」  白いリボンで結った長い黒髪、陽武園の制服、腰に巻いた帯に見える一振りの刀が特徴的な美少女。  どうやら陽武園の生徒らしい。 「やはりか! ありがとう! 助かったよ!」 「は?」 「あれは私の鬱陶しい付き人のやった事でな。そんなに転校させたくなかったのか……アイツは」  何かわからないが、とりあえず礼を言われた。 「お前……名前は?」 「いや、まぁ……名前はいいじゃないですか」 「無理には聞かない。……それよりも恩人に礼をしないと。命を救われたのだから」 「なら……無理だと思いますけど、入学式に間に合うようにしてください」  美少女は腰にある刀を鞘から抜き取り、刃の部分を指で撫でる。 「そんなことか。承知した。体育館前に飛ぶが、それでいいな?」 「……ぇっ!」  緋色は目を疑った。  気づけば身体が空に舞い上がっていた。 「それっ……! まさか“風刀・舞揺蓮”じゃ」 「よく知ってるな。確かにこれは“舞揺蓮”だ。そして今の力は【風衣】という力を使っている。空を駆ける理由はそれだ」  景色と話に気を取られていたせいか、すぐに学園の体育館前へと着地した気分になる。 「これで礼はできたか?」 「あ、ああ」 「そうか。ならばこれで失礼する。今日はありがとうな」  何もなかったかのように美少女と別れる。  緋色は体育館へと後から入っていった。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加