カササギと愛の国～天才少年篇～

天才と呼ばれた少年。

『天才少年は海を越える！』

その文字を見て僕はすぐに新聞紙を閉じた。完全に不意打ちだった。紙のしなる音を聞いたのか、まさか五面に載ってるとはね、と台所で食器を洗っている母が言う。それに言葉を返そうとは思わなかった。

僕はカップに入ったブラックコーヒーを飲みながら再び新聞を読み始めた。六面には小国の革命と電子ゲーム会社の不振が書かれていた。七面にはバイ・セクシャルの保護会の訴えと政治家の浮気疑惑が書かれていた。新聞に載るニュースは僕にはいちいちどうでもいい情報のように思えた。政治家の浮気相手の名前と住所を知って喜ぶ人間が世界に何人いるだろう？
｢母さん、館野議員の浮気相手って誰か知ってる？｣と僕は尋ねた。
｢飯島より子でしょ｣と母は言った。