天才と呼ばれた少年。

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発明は無数の未知だった。確かにできあがる前にもだいたいの完成図は想像できるし、できあがってみるとそれは既知の法則を組み合わせただけのものだったりする。しかしそれは僕によって発明されるまで世界の誰も知らないものだったのだ。そう考えると、なんだか小さな世界の創造主になったような気がして、胸が締まり、顔が赤くなった。 僕は新しくものを作るときその制作過程を『打ち込み』と呼んだ。というのもDTMによる作曲と発明がよく似ていたからだ。コードを並べて作曲することは、法則を並べて発明することに置き換えることができる。ひとつのハードウェアでさまざまな音色を使えることは、そのまま想像力に当てはめることができた。生まれもった資質に大きく作用されることも似通っていた。 僕はときどきCDショップでインディーズ・バンドの楽譜を買い、それをDTMで打ち込んだ。できあがった音はなんだか間抜けていた。それはいくらリバーブのかかり具合を調節しても、いくら馬鹿高い音源に替えても直らなかった。
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