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私の目には確かに赤が見えた
二人のりの男女にも確かに赤は見えていただろうが次の瞬間彼らはトラックにそのバイクごとはね飛ばされた
私は二人が共に寄り添うように死んでいるのをただみていた
いや、見ていたのは一瞬で二人をみて最初の世話をした郷田信三さんという患者とその妻である明美さん思い出していた
郷田さんは病が重く、延命装置により生きているようなものであった
そのような状態でも郷田さんの妻が毎日のように見舞いにきていた
結婚して50年程たつといっていたふたりはまるで夫婦の鏡のようであった
彼女は私によく信三さんの話をしてくれていた
二人は川端康成が好きだったらしく伊豆に何度も行った話や 小鳥をたくさんかっていた話などよくきかされた
私は彼女の話をきくのが日課となっていた しかしそれは2ヶ月と続かなかった
雪がよく降る日だった 駅からバスを降り病院にはいりいつものように部屋にはいると既に信三さんはいなかった
いたのは妻の明美さんのみだった
私が一言、二言話し出すと彼女は堪えていた涙が溢れてきて泣きじゃくるように語りかけてきた
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