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スライムの故郷、はじまりの洞窟。
スライムだけが生息している穏やかな洞窟だ。
そこらで小石を集めるフェミ族スライムや、自分と同じくらいの石に寄り添って眠る祖族スライムなど、どちらも敵意は皆無である。
「懐かしいなぁ。初めて僕を召喚してくれたご主人様がいつも連れてってくれた頃を思い出すなぁ」
「確かお前を最初に召喚したと言っていたか」
「はい。最初はワイバーンさんと僕の二人だけで。それからゴーレムじいちゃんとバルログ兄弟…、ご主人様がクランを貯めて沢山召喚してくれたんです。嬉しかったな」
二人ほど座れる大きさの石に腰を下ろして、スライムは遠くを眺めていた。
普段とは打って変わった少し大人びたような表情に、俺は戸惑った。
「隣、空いてますよ」
躊躇いながらもスライムの横に腰掛けて、同じ視線を辿ってみた。
「…不思議ですね。ご主人様の下に仕えてから『僕には二つの帰る家があるんだ』って思うようになったんです」
視線を前に向けたままぽつりぽつりと呟いた。
「此処へ来ても『帰ってきたなぁ』って思うし、ご主人様の元に喚び出されても『ただいま』って思うんです。へへ、なんだか可笑しいでしょう?」
「…それは、」
「え?」
「………それは、お前にとって居心地が良い場所だからじゃないのか」
俺自身もそうなのだから。
スライムのように俺の故郷は穏やかとは断じて言えないが、城へ戻ってもそう思うし、喚び出されて安堵するのもまた然りだ。
俺が答えると、スライムは納得したように頷いた。
「はいっ。僕、ご主人様に召喚して貰えて良かったです!」
いつもの顔に戻ったスライムを見て、声には出さなかったが俺もそう思った。
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